「いててて・・・」 先程窓から蹴り飛ばされていった男が、リビングのソファに寝かされ悶絶している。
心配そうに姉と桃香はその顔をのぞき込んでいるけど、私にはこれ見よがしなその態度が腹立たしい。
「だから、何度も謝ってるでしょ?いい加減にしてよ!!」
痛い痛いと言いながら私の顔を訴えかけるような目で見てくる男に心底嫌気が差し、私は自分が悪いにもかかわらずついついそんなことを言ってしまう。
「ちょっと桜、恩人に向かってその言い方はないでしょ?」
姉にそう言われると言葉に詰まる。
なんでもこの男は、公園で倒れていた私をわざわざ家まで負ぶってきてくれたらしい。
確かにそれは・・・感謝しなきゃいけないんだけど。
「ったく・・・いてぇなぁ・・・・」
私が黙ってしまうと、男はわざと聞こえるような声でそう呟きながら上体を起こした。
「起きて大丈夫?」
桃香の心配そうな声に、男はそのしかめっ面を一変させて、
「うん、もう大丈夫♪」
などと言った・・・
はち切れんばかりの笑顔である。ホントに痛いのかという疑問が浮かぶのは当然・・・
「無理しないでいいのよ、もう少し横になっていたら?」
と言うのは姉の弁。なんでそうなるの?
そして男は
「そうですね、もう少しだけ♪」
と言って素直に横になろうとする・・・
・・・・・・
なんだこいつ!!
鼻の下伸ばして、へらへらしてっ!!
「ちょっと、人が下手に出てるからっていい気にならないでよね!!」
軟派な男が気に入らず、とうとう私は思い切り叫んでしまった。
三人が驚いた顔で私を見る。
「ちょっと桜、さっきも言ったけど恩人に向かってなんてこと・・・」
「お礼も言ったし謝罪もちゃんとした!!もう関係ないわ、さっさと出て行きさいよ!!」
私は姉の言葉を遮るようにして男に向かって罵声を浴びせた。
「大体あんた何者よ、何溶け込んでんのよ!!ここは私たちの家よ、無関係な人はさっさと出て行きなさいよ!!」
すると・・・
「・・・おねぇちゃん?」
「・・・桜?」
鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔で二人とも私を見ている。
ちょっと、・・・なによ・・・
「何言ってるの?」
二人の声が重なって放たれた。
「・・・・・・」
はい?
「従兄弟に向かって出て行けはないでしょ?」
・・・
頭の上を、ひよこが飛んで行く。
「・・・・・・・・・・・・従兄弟?」
「そ、高嶺咲、咲君じゃない。」
姉はいたって真面目な顔でそう言った。
・・・
・・・
・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「なるほど、咲君か。」
「そう咲く・・・」
って、「誰よ!!」
何が「咲君」よ。
こんななよなよした奴初めて見たし、第一私たちの身内にこんな奴はいない!!
だって十数年生きてきたけどこんな奴と会った事なんて一度もないのよ?
だのになんで二人はさも当然そうな顔してるわけ?
何?何なのよ一体!!
という思考を頭の中で行っていると、
「・・・マジで言ってるの?」
冷たい口調で姉が言う。
「・・・・・・」
無言のまま怪訝な顔をしている桃香が怖い。
「な、なによ・・・」
二人のマジっぽさにちょっと逃げ腰になる私。
しかしどんなに記憶を遡ってみても、こんな金髪で碧眼で巻き毛で長身で鼻が高い男なんて見た事ないし・・・
そもそも。
「・・・髪金髪で目が青色でも従兄弟なわけ?」
姉妹二人は顔を見合わすと、同時にその咲君とやらの方を向く。
そして、
「脱色と、カラコン。」
と言う男の一言に何度も頷いた。
・・・おいおい。 根本まで金色の脱色なんて誰の技よ。
「まったく、どうあっても咲君の事知らないって言うの?」
姉の椿が痺れを切らした声をあげる。
「知らないってば、そんな男。」
ここまで来たら私だって意地がある、退くわけにはいかない。
というより、知らないのを知らないと言って何が悪い。
「アルバムにも写ってるのに?」
その時ぼっそっと呟くように桃香の声。
「なるほど、そうよアルバム見てみなさいよ。一緒に写っておいてもまだしらを切れるかしら?」
・・・マジ?
桃香がずいっと棚に並べられたアルバムを一冊差し出す。
おそるおそるページをめくるとそこには・・・
「・・・」
「ねっ、写ってるでしょ?」
「こんなに仲良かったのに、一体何で顔なんか忘れるわけ?」
・・・・・・・・・・
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
そこには二人の人物が写っていた。
三つ編みの女の子は私、そして・・・・その脇には金髪の少年。
幼い顔だが、目の前の男にそっくり、いや、これはもう本人だろう。
しかし、だがしかし!!
「なんであたしキスされてんのよ!!」
幼い頃の写真には、頬に少年のキスを受ける私がいた・・・