大粒の涙を流し続ける私に対し、彼は何も言わなかった。 教会には私の声だけが響き渡り、ゆらゆらと蝋燭の火が揺れるばかりだった。
彼は静かに私を見るだけで、口を開くことはなかった。
しかしそれが私には嬉しかった。
何を言われても私には、その言葉を受けたところで惨めな気持ちになるしかなかったのだから。
彼はただ、声をあげて泣く私を、その黒い瞳で、優しさの隠ったそれで、ただじっと見つめてくれた。
その瞳に自分が映るのを見て、私は自分が今、ここにいることを確認できた。
何故泣いたのか、よく解らない。
ただひたすら泣いた。
泣いて泣いて、色んなものが外へ出て行って。
淀みが流されてゆくように。
どれほど私は泣き続けたのだろう。
いつしか、私たちの周りは彩り豊かな光に包まれていた。
ステンドグラスから差し込む光が、ここまで届いていた。
夜は、いつの間にか明けたらしい。
そして。
雨も止んだようだ。
眩しさに目を細めた私に、彼が優しく言った。
「止みましたね。」
それは、雨のことだろうか、それとも。
その刹那、私の顔は真っ赤になった事だろう。
見知らぬ人の前で、私は一体何時間泣いたのだろう。
そして、そんな私の顔は今一体どんなことになっているのか。
そんなことを思ったからだ。
内心大あわての私の気持ちを知ってか知らぬか、彼はこんな事を言った。
「清々しい、顔ですよ。」
涙は止まった。
だけど枯れた訳じゃない。
色んなものを、沢山洗い流し終えたのだ。
水の引いた地に立つと、僅かな風も涼しく心地よい。
きっと、私の胸の内にも、風が吹いたのだろう。
そこに溜まった汚いものは洗われ流され、風に消えた。
妙に、そう彼の言うとおり、清々しい。
私は笑った。
彼も笑った。
小鳥の囀りが、外に聞こえていた。