第三節
「えっと、雨宿りでしたよね。構わないと思いますよ。立ち話もなんです、座りませんか?」
彼はそう言うと、パタパタと黒い手袋をした手で軽く床の埃を払い、祭壇にもたれ掛かるようにして座った。
そしてどうぞと言わんばかりににっこりと笑う。
私は一瞬躊躇したが、その笑顔から彼が彼曰く「悪人」ではないと判断し、その隣に腰を下ろした。
「随分濡れていますね。風邪を引いてしまいますよ。」
彼はそう言うと、祭壇の裏に置かれていたこれまた真っ黒な、大きな大きな鞄からタオルを一つ取り出した。
「どうぞ、使って下さい。」
彼はにっこりと笑ってそれを差し出した。
「あっ・・・どうも・・・」
私はそれをぎこちなくも受け取り、濡れた髪を拭きだした。
「それにしても、凄い雨ですね。」
彼は外の雨脚に耳を傾けるようにして言った。
「本当に、こんな所に教会があって助かりました。」
彼はそこまで言うと、
「そうは思いませんか?」
と、柔和な笑顔を浮かべながら言った。
「えっ・・・あっ・・・はい、そうですね、雨宿りするにもなかなかいい場所無かったし・・・」
人見知りの気がある私は、親しげに話しかける彼に少し戸惑っていた。
「でも、こんな時間に女の子一人で、一体どうしたんですか?」
そんな私の心情を知ってか知らずか、彼は私に一つの問いを投げかけた。
しかし、まあ当然かもしれない。
こんな時間のこんな天気で、好んで外を出歩く人はいないだろう。
「えっと・・・あ、あなたはどうして?」
でもその質問にはあまり答えたくない。
そのため私は質問を質問で返した。
「私ですか?」
彼は少し目を大きくすると、一人頷ながら言った。
「う〜ん、まぁ、当然の質問ですね・・・」
彼はははっ、と笑った。
よく笑える人だと、そう私は思った。
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