STARRED


8th leccen 1




 なるほど確かに広い。
 暫く歩いた俺達は、やたら広い空間に辿り着いた。
 あたりには水気を帯びた空気が満ちているも、なぜか不快じゃない。
 脇を静かに水が流れていた。
 濃い色をした水はなかなか幻想的だ。
 なかなかいい、曲のイメージが湧いてきそうだ・・・
「ここでいいだろう。辺りも見渡せる。」
 アトリスセンセは丁度真ん中の辺りで辺りを見回すと、頷くようにして俺達の顔を見た。
「楽にしたまえ、腰を下ろしても構わん。」
 その声に俺達は渇いた岩に腰を下ろし、中心にセンセを据えるようなかたちになった。
「よし。それでは君たちの戦闘を始めてみさせて貰ったわけだが、簡単な反省会を開こう。」
 もう一度俺達を見回すと、センセは真っ白な靴を鳴らせながら話し始めた。


「まずアスラ。」
 真っ先に自分の名が呼ばれ、下に向けていた視線を教官に向ける。
「見たこともない剣技だった。確かお前はサイラの出身だったな、流派はなんだ?」
 反省会、と言う響きから厳しい言葉を受けるのかと思っていたため意外な質問に思えなくもない。
 しかし返答を求められた以上答えるべきだろう。
「確かに、自分はサイラ出身です。剣技は、『橘流御霊剣技』。我が家が代々受け継いできたものです。」
「タチバナ・・・ゴリョウケン・・・、ふむ。」
 教官は甲冑に包まれた指を顎に当て、吟味するかのように深く頷く。
「なるほど、サイラの文化はなかなかに興味深いな。ゴリョウケン、どうやらそれは我々の言うオーラブレードの事のようだな。」
 オーラブレード、キースから何度か聞いた言葉だ・・・
「お前のゴリョウケン、つまりオーラブレードと呼ばれる能力、それを簡単に説明しよう。」
 そこまで言うと急にトリスの方を教官が向く。
「トリノ、お前の能力もオーラブレードだ。良く話を聞くように。」
 トリノがその声に、片手を上げるだけの簡単な返事を返した。
「簡単に言えばオーラ、つまり“闘気(オーラ)”を己の武器に込めることだ。」
 教官はその手を自らの腰に帯びた剣へ伸ばし、すっとそれを抜く。
 柄から刀身にかけて奇妙な形の十字が描かれた両刃の剣。柄は黄金だろうか、美しい装飾がなされていた
「例えばこのように。」
 そう教官が言った時だった。
 真っ直ぐに伸ばした腕に持たれた剣が、淡い青色に輝き出す・・・
「おぉ・・・」
「へぇ・・・」
 各々感嘆の声を漏らしているようだ。
 初めて見たのかも知れない。自分も嘗て初めて御霊剣を見た時は口をあんぐりと開けていたのだから・・・
「今私の剣のまわりに青い光が見えるだろう。それが私の闘気(オーラ)だ。」
 ふと剣から光が消え、教官はそれを下ろす。
闘気(オーラ)とはあらゆる生物が生まれながらにして持ち合わせている力、生命エネルギーとも言える。追いつめられた時いつも以上の力が出ることがあるだろう?簡単に言ってしまえばそれだ。」
 なるほど、同じ事を昔聞いた。どうやら確かにオーラブレードとは我々の国で言う御霊剣と同じ事のようだ。
「あ、あの。皆が持っているというと私も、ですか?」
 おずおずと、手を挙げたのはユミルだ。
「無論、だ。しかしそれはそのまま使いこなせる、という意味ではない。自在に操るには相応の素質、そして鍛錬が必要だ。それに闘気の量も人それぞれだ。武術に秀でた者は多くの闘気を持っていることが多い。しかし魔術師など魔術を使う者達は殆ど持っていない。」
 両刃の剣を鞘に戻し、真白の甲冑を付けた腕を組む。
「つまり、闘気(オーラ)を用いて闘うことに適した者達の能力をオーラブレードと総称する。私のように魔法も使える者も、勿論いるがな。」
 そこまで言うと教官は自分とトリノの顔を見る。
「二人ともよく闘気を練れている。特にアスラは流派の元で学んだせいか筋がいい。トリノは我流か?」
 視線をトリノに向ける。
「驚いたね、そんな事まで解るのかい?」
「どんな武術も闘気(オーラ)の存在を知っていようがいまいが、自然と取り入れている。しっかり学べば身に付いているものだ。しかしお前の闘気(オーラ)にはムラが多い、流派の元で学んだように感じなかった。ただ、ムラっ気だが闘気(オーラ)の大きさはトリノの方が上回っているようだ。」
 淡々と教官は語る。自分たちは黙って聞いているばかりだ。
「ムラ、か。それって直せるのかい?」
「無論だ、その為のアカデミーだ。」
 教官の言葉にトリノが小さく微笑む。
 ・・・
「最初の説明はこの程度だ。さて、次はユミル、イヴ、そしてキースの三人に関する魔力について説明する。


「では、ユミル。」

 三人のうち一番に名前を呼ばれてびくっとなる。

 先生は聖騎士(パラディン)、私みたいな神官見習いにとっては遠くの存在。そんな人に声を掛けられるとどうしても緊張してしまう。

「お前はトーラ教の神官見習いだったな?神聖魔法(ホーリー・マジック)、見せてもらった。」

 息を飲む・・・

「うん、なかなかだった。『癒しの光(ホーリー・ライト)』以外に何が使える?」

 多分この時、私は凄い笑顔をしたと思う。ちょっとはしたなかったかな、と思うけど、そのくらい嬉しかった。

「え、えっと、後は『聖なる加護(ホワイト・ルーク)』が・・・」

聖なる加護(ホワイト・ルーク)』というのは対象者に物理的な攻撃を弱める神のご加護を与える魔法。私が使える数少ない魔法の一つ。

聖なる加護(ホワイト・ルーク)、か。ふむ。誰に習った?」

「あ、父です。といっても魔法を二つ教えてもらっただけなんですが・・・」

 アカデミーからの招待が来て、旅立つまでの少しの間だけ、父は私に神聖魔法(ホーリー・マジック)の事を教えてくれた。でも詳しい事は全く教えてもらっていない、というより教わっている時間が全くなかった。

 一人で旅をするための、身を守る手段を覚えるのにその時間を全て費やした。そのため神聖魔法とはいったい何なのかという事は全く知らないのだ。

「そうか、では簡単だが説明しよう。世界には沢山の魔法が存在する。神聖魔法(ホーリー・マジック)自然魔法(エレメント・マジック)暗黒魔法(ダーク・マジック)召還術(サーモニン)・・・その源は魔力(マナ)だ。魔力(マナ)とは闘気(オーラ)のような肉体に宿る生命エネルギーではなく、思い、知識、感情、信仰心・・・そういったものに依存する精神エネルギーだ。闘気(オーラ)と同じく誰もが本来持っていながら、扱いが繊細で複雑なせいで使いこなせる者は少ない。しかしその超自然的、超物理的な力は極めれば強大なものになる、しっかり鍛錬に励めよ。」

 信仰心・・・

「という事は、トーラ様を信じる気持ちが強い程私の魔力(マナ)も強くなってゆくという事ですか?」

「そうだな、揺るがない信仰、信条、信念は闘気(オーラ)もそうだが魔力(マナ)を大きくする。しかしそれはただ信じればいいと言う事じゃない、“想い”を力に変える・・・一番大切で、一番難しい事だ。」

 想いを、力に。

 難しい・・・けれど言葉はゆっくりと胸に染みこんでいった・・・

「次、キース。」


 俺様は他の連中と違って自分の“力”については良く知っている。

 何しろガキの頃から里の書物を読みあさってきたんだからな。 

 さぁ、何でも聞いてくれ、株を上げるチャンスだぜ。

「キースの力は、召還術(サーモニング)だな?」

「はい、先程の戦闘で召還したのは風の精霊『シルフ』です。」

 さあ、聞け、聞け、何でも答えてやる!!

「他に何が召還できるんだ?」

 きたーっ。

「四大精霊の残りの三つ、なら。」

 俺様は見逃さなかった。

 あの冷静沈着なアトリス様が、少なからず今の一言で驚いた事を!!

「ほう、それは凄いな。ならお前は召還術(サーモニング)についてはそこそこの知識はあるわけだな?」

 もちろんだ。

 俺様は返事をする代わりに得意げな顔をしてみせた。

「では私の代わりに皆に説明してもらおうか、いや簡単でいい。」

 くっくっくっ・・・待ってましたよ。

 ゆっくりと腰を上げ、俺様は一度咳払いをしてから辺りを見回す。

 皆の期待に満ちた顔、ああ、優越感〜。

「あ〜、つまり召還術(サーモニング)っていうのは魔力(マナ)で空間と空間を繋ぐ“門”を作り、それを開く、そして望む対象を呼び出す術だ。」

 イドやユミルは真剣に俺様の話を聞いている。

 これだよ、これだから知識を増やす事は止められない。

「しかし、ただ闇雲に門を開いても求める対象が必ず現れるとは限らない。だから召還する対象と契約を結び、決まり文句で呼び出すんだ。」

 ちなみに決まり文句とは詠唱の事だ。これで門を繋ぎ、開き、そして対象を呼ぶプロセスが完成する。

「以上、これ以上ない簡単な説明終わり。あ、補足として言うと召還術(サーモニング)は他の魔法と比べて遙かに魔力(マナ)と集中力を要するんだ。それをカバーするために魔法陣とか紋章とか描いたりするんだな。」

 だだっ広い鍾乳洞に、感嘆の声と疎らな拍手の音が響く。

 素晴らしいね。

「でもあんたは魔法陣とか紋章とか、全く描かなかったじゃないか。それは何でだい?」

 とは暴力女の弁。ふっ、脳タリンかと思っていたが、なかなかいい質問だ。

「そう、俺様は魔法陣も紋章も描かない。描いているとき隙だらけだからな。だから俺様は少しでもその隙を無くすために、印を結ぶ。」

 俺様は紋様のびっしりと書き込まれた手をぶらぶらと振ってみせる。

 皆の目がそれに集中したのを確認すると、振るのを止めて手に魔力(マナ)を集める。

「あっ・・・」

 声をあげたのはユミルだ。他の(まぁアスラは何度か見てるから除いて)皆も声には出さないながらも驚いている。

 魔力(マナ)が集まった手の紋様が、碧色に淡く輝いている。

「俺様の手に描かれた紋様は魔法陣を作るのに必要なパーツが幾つも描かれているんだ。そして紋様は魔力(マナ)を集めた所だけ光るようになっている。これがどういう意味か解るか?」

「印と紋様の組み合わせで、幾つもの魔法陣を描ける、って事か?」

 答えたのはイド。ズバリ正解だ。

「ビンゴ、冴えてるな。つまり俺様は召還を助ける魔法陣を印と紋様によって手だけで作れるって訳。どうよ。」

「なるほど、優れた技術だ。しかしそれは里の秘密というものではないのか?」

 得意げになっていた俺様の鼻を折ったのはなんとアトリス先生。

 ああ、痛いところを・・・

「いや、まぁ、それは、その、ね・・・」

「まぁいい。流石召還士の里といわれるだけの事はあるなスーアは。皆も少しは召還術(サーモニング)の事が解っただろう?キース、ご苦労だった。」

 ・・・ふぅ。

 やれやれ、最後は冷や汗が出そうだった。まさかあんな事言われるとは、ね。

 しっかし、やっぱ一流のハンターは違うね、俺様の故郷スーアは確かに召還士の里の名を持つが、他にも“隠れ里”とも呼ばれている。そんな集落の存在もちゃんと知っているとは、お見それするね。いや全く。


 「さて、最後にイヴの魔法に関してだが・・・」

 アトリスがイヴに視線をやる。イヴの奴はアトリスと視線を合わせても、これといった反応を示さない。

「おい、聞いているか?」

 と言われ、こくんと首を振っただけだった。

 最初は調子が狂うと思っていたが、慣れればそれだけで十分だという事が解ってきた。

 イド曰く、

『どれだけ日頃の言葉が無駄で無意味か思い知らされるよな。』

 だ。あたしも同感だ。

 しかしまだイブの独特の間に慣れていないアトリスは少し訝しげな顔をしている。それも解らなくはない。

「聞いているんならいいんだが。あー、まず聞こう。お前は自分が何魔法を使っているか把握しているか?」

 問いに対して暫く無反応なイヴ。もう一度アトリスが問い直そうとした時ようやく、

「わからない。」

 とだけ答えた。やれやれだね。

「そうか。なら説明が必要だな。イヴ、お前が使う魔法は自然魔法(エレメント・マジク)と呼ばれるものだ。」

 イヴの返答に対しアトリスは淡々と弁を進める。そして、

「キース、自然魔法(エレメント・マジク)について簡単に説明してみろ。」

との声。

 言われて奴は、『待ってました』と言わんばかりに目を光らせてぺらぺらと語り出す。

自然魔法(エレメント・マジク)とは魔法の中でもポピュラーな物の一つだ。火、水、風といった自然の力を用いる魔法で、火の玉を出したり竜巻を巻き起こせたりする。極めれば天候すら操れるとまで言われている魔法だ。」

 一気に話し終えた奴は誇らしげに周りを見回した。

 ただの色ボケ野郎ではない、と悔しいが思わずには居られなかった。

「まあそんなところだ。」

 満足げに頷くアトリスは、人差し指を立てた。

「イヴは両手に魔力(マナ)を集中させそれを放っている。放たれた魔力(マナ)は風の砲弾となり対象を攻撃していた。これは『空気の弾丸(エア・ブレッド)』と呼ばれる魔法だ。」

「でも魔法って詠唱が必要なんじゃなかったけ?」

 アトリスの説明に口を挟んだのはイドだった。

「確かに魔法には一般的に詠唱が必要だ。しかし詠唱無しで魔法を発動する事は不可能ではない。熟練の魔法使いは簡単な魔法なら詠唱もなしに発動できるからな。勿論未熟な者とて詠唱なしに発動できない事はないが、詠唱をした方が早く発動できる。つまり、イヴは詠唱をすればもっと早く魔法を発動できるというわけだ。」

 へぇ、と感嘆を漏らしたイドからアトリスは視線をイヴに戻す。

「しかしまだ十四歳だというのに、習得難易度Dの魔法を使えるとは、正直驚きだな。後で空気の弾丸(エア・ブレッド)の詠唱と難易度Eの魔法をまとめて教えよう。きっとすぐに使えるようになる。」

 しかしなんだかウチのパーティの奴等は凄いのばっかりだね。

 アスラ、キース、ユミルにイヴ。

 自分もうかうかしていられないね。

 ・・・・ん?

 そういえばイドの力についての説明はどうした?

 と思った時だ。 

「では・・・最後にイドの能力について、だな・・・」


「ときにイド、ずっと気にはなっていたんだが、その背に背負っている物はなんだ?」

 センセは俺の背中を指差して言った。あぁ、そういえばセンセにはまだちゃんと見せた事がなかった。

 俺は背負ったそれをおろし、巻かれた布を丁寧に取り払いそれを腿の上に置いた。

「真紅の琴、自称スターレッド。一族の大切な物ですよ。」

「楽器、か?見た事のない形だな・・・しかし何故そんなものを持ち歩く?邪魔だろう。」

 まぁ確かに。だけどそうはいかないんだな、これが。

「一応一族の宝ですし、それを預けられた者として簡単に置きっぱなしに出来るような代物じゃないんすよ。それに・・・」

 正直言うとね。

「これが無いと落ち着かないんすよ、なんとなく。」

 というわけだ。

「そうか?まあそれならいい・・・・・・」

 ん?なんだろ。なんかさっきからセンセの様子がおかしい。

 オーラブレードの事説明した時、何でか知らないが俺の名前は出てこなかった。それと関係するんだろうか?

 もしかして俺っみんなみたいな特別な力がないとか?

 あっ、でも“あの時”いらいなんか不思議な力は感じてるし。

 何なんだよ、一体。

「なぁ。」

 横合いからトリノの声がした。

「ところでイドの力って何なんだい?オーラブレードじゃないのかい?」

 まるで俺の気持ちを代弁するような台詞だ。

 みんなも実際同じ事を思っていたのか、センセに視線が集中する。

「ああ、その事なんだが・・・」

 センセは何か考えるような顔をした後、俺の方を向いて言った。

「イド、闘気(オーラ)を込めてちょっとそれを弾いてみろ。」

 へ?

 センセの指の先にはスターレッド。

 何を言ってるんだ?

「えっと、どういう事ですか?」

 今度はユミルが俺の疑問を代弁してくれた。

「・・・・・・・」

 ・・・何で黙るんよ、気になるなぁ・・・

「・・・不確かな事なんだが・・・」

 少し険しい顔でセンセは話し始めた。

「お前の能力はオーラブレードだ。これは間違いない。よく練られた、良い闘気(オーラ)がダガーに込められていた。しかし・・・お前のその闘気(オーラ)に反応するように、何か別の力を感じた。ごく僅かなものだったが・・・」

 良かった、俺にも力がちゃんとあった、と安堵する間もなく今度は驚きが俺を襲った。

 俺の闘気(オーラ)に、反応する力・・・?

「今そのスターレッドというものを見て、何となくだが先程感じた力に似たものを感じた。だからそれを闘気(オーラ)を込めて弾いてみろと言ったんだ。」

 ついさっきまでセンセに集中していた視線が、俺とスターレッドに集まる。

 ドクン、と何故か一際大きな鼓動。

 なんだろ・・・なんだ?

 緊張する・・・

 ゆっくりと、俺は力を右手に込める。闘気(オーラ)が指先に集中し、ピッグヘと集まって行く・・・

 コードは、適当だ。

 ふっと右手で六本の弦を弾いた。

「!!」

 驚かずには居られなかった。

 ヴァン、とデタラメな弦の抑え方に相応しい歪んだ音がした。そう思った瞬間に、何か大きな波がスターレッドから発された。

 奏でられた音と共に、音速で波は広がって行く。

「うわっ!!」

「きゃっ!!」

 短い悲鳴。発せられた波がみんなの身体をこわばらせた。

 着ている服のたるみが風に吹かれたように動き、髪は靡く。

 ユミルの被った白い帽子が飛んだ。

 放射状に波は広がって行き、鍾乳洞に木霊す音と共にやがて小さくなって消えていった・・・

「な・・・なんだよ・・・」

 こう言うのも何だけど、やった本人の俺が一番驚いてた。

 皆呆然として俺の方を見ている。

「衝撃波・・・」

 ぼそっと呟いたキースの声は、思いの外良く響いた。

「凄い・・・」

 感嘆の言葉を発するユミルの声も、何処か遠くに聞こえた。

 身体が熱く火照っていた。

 ・・・

 訳がわかんねぇ。

 頭の中がぐるぐるしてる。

 取り敢えず解ったのは、スターレッド、こいつは凄い代物だって事。

「どうなってんだ、おい、アトリス!!」

 トリノの慌てた声でようやく我に返ったのか、センセは頭を振った。

「衝撃波・・・おそらくイドの闘気(オーラ)にそのスターレッドが反応して先程の現象を引き起こしたんだ。・・・攻撃の意思がなかった所為で放射状に放たれたが、よかった。もし攻撃の意思があったら大怪我をしていた・・・」

 センセは普段通りに話しているつもりだろうが、いつも通りでないのは一目瞭然だ。取り乱してる。いや、落ち着いてないのは俺も同じだけど・・・

 早まる鼓動を必死に抑えようとしている時だった。

 ゴゴゴゴゴゴゴッ、とどこからともなく地鳴りの音が響いてくる。

「今度は何だ・・・」

 いつも冷静なアスラでさえ大声を上げている始末だ。はっきり言ってみんなパニック状態だ。

「おい、揺れてるぞ!!」

 キースが叫ぶ。

 確かに鍾乳洞全体が揺れていた。地震か?いや、違う!!

「下からっ、音がします!!」

 揺れによって倒れぬよう必死で立っているユミルが悲痛げな声を上げた。

 確かに、先程から聞こえる地鳴りは足下から聞こえてくる。それに、何だ?段々大きくなっているぞ!!

 何だ・・・・何なんだ!?

 一際大きな音が響いた。

 地面が割れ、巨大な影がそこから飛び出す。

 俺達の視線は、ただその影を追うばかり。

 身体が動かない・・・

 ズン、と大きな音を立て影の正体は俺達の前に現れた。

 馬鹿でかい・・・なんだこいつ、蟹か!?

「懐かしい音がすると思えば・・・・エンキドゥ!!また貴様かぁぁぁぁぁぁ!!」

 蟹は耳を塞ぎたくなるようなでかい声を上げて叫んだ。

 なんなんだよ。

 一体全体何なんだよ。

 わからねぇ。

 全くもって、何一つわからねえ!!

 ただ一つ、こいつは敵で、勝たなきゃ多分生きて帰れないって事を除いては・・・

 俺は無意識のうちに、ダガーでなくスターレッドを持って身構えていた。



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