STARRED


5th entrance!!




 柔らかな風が吹いている。

 日差しは穏やかで、ぽかぽかとした陽気が心地いい。

 彩花の月、五日。いよいよこの日がやってきた。

 ベェッツィーニハンターアカデミーの入学式!

 ベッツィーニに着いてから一週間、色々あった・・・

 特にアスラとキースの宿代捻出は・・・

 ・・・・・・この話はいいや。

 ともかく!ついに俺達はハンターアカデミーに入学するわけだ!

「なんだか緊張してきました・・・・・・」

 ユミルがやや震えた声で言った。がちがちに緊張しているのが伝わってくる。

 俺達はアカデミーの正門前に立っている。

 一週間前と同じ門の前には”ベェッツィーニハンターアカデミー入学式”と書かれた看板が立てかけてある。

 続々と新入生らしき人たちが門の中へと消えて行く。

 横目で他の連中を見てみる。

 みんな、少し表情が硬い。あのキースですらさっきから一言も話していない。

 やっぱ、みんな緊張してんだ・・・・・・

 まぁ、イヴはいつも通りだけどな。

「・・・・・・」

 複雑な気持ちだ。

 期待と不安の入り交じった気持ち、とはこういうことを言うんだろう。

 俺は目を瞑った。

 大きく息を吸い、そして吐く。

「・・・・・・」

 静かに瞼を開ける。

 決心は・・・・・・揺るがない。

「行くぜ・・・・・・」

 俺は、アカデミーへと足を踏み入れた。  



 アカデミーの旧市街地区画にある大講堂。私達の、ハンターとしての始まりの場。

 ハンターズギルドと向かい合うように立つ、巨大な講堂。

 羽を広げた鷲が二羽、扉を挟んで向かい合うように壁にしっかりと彫られている。

「ハンターのシンボルだな。」



 そう言ったのはキースさん。

「狙った獲物は逃がさない狩人であり、世界を自由に舞う存在・・・か。」

 正しく“ハンター”だな、そう言うとキースさんは開かれた扉の向こうへと進んで行った。

 私は一度立ち止まり、彼の言葉を反芻した。

 狙った獲物は逃がさない狩人であり、世界を自由に舞う存在。

 なれるだろうか。

 私に。

「緊張してる?」

 後ろからイドさんに声を掛けられた。

 イドさんは、自身で満ちあふれた顔をしている。

「行くぜ。」

 そう言って彼は一歩踏み出した。

 私もそれに続き、始まりの場所へと足を踏み入れたのだった。

 

 講堂には沢山の人間。

 所々に立つ係員に導かれ、自分たちは壇上を前に席に席に座る。

 回りの喧噪が、なぜか遠くに聞こえる。

 自分の鼓動が聞こえる。

 緊張している?

 柄でもない。

 自分はふっと、軽く笑った。

「余裕だな。」

 そう言ったのはキースだ。

「何がだ?」

 自分は頭を動かすことで前髪をずらしそう言った。

「緊張してないようだからな、俺様でさえ多少びびってるのによ。」

 キースは眼鏡を直しながら言う。

「顔に出ていないだけだ。」

 自分はまた軽く笑いながら言った。

「お前の顔から感情読み取るのは難しいんだよ。」

 キースは大きく息を吐き出した。その時、後ろの方で扉の閉じる音がした。

「いよいよだな。」

 キースの言葉に、自分は背筋を伸ばした。



「ここに集まった諸君、まずはおめでとう。」

 壇上に上がったおっさんが言った。

 歳は、四十後半ぐらい、ロマンスグレイの髪は豊かだ。

 顔は面長で、なかなか渋いナイスミドルだ、と思う。

 しかし・・・随分キツそうな顔だよなぁ・・・

 随分高そうなスーツを纏い、きっちりネクタイまで締めている。

 お偉いさんだな。

「私はこのアカデミーの副学長を務めるライズという者だ。」

 当たり。

「これから学長からのお話がある、皆心して聞くように。」

 おっさんが言い終えると講堂中で拍手が起こる。

 たいしたことを言っているとは思えないんだけどなぁ。

 とりあえず俺も拍手。

 イヴにはこづいてやらせた。

 拍手が鳴りやむ前に、今度はじいさんが壇上に上がってきた。

 濃い紫色のローブを纏い、金色の錫を杖のようについて中央まで歩いてゆく。

 格好だけ見れば何処ぞの王様みたいだが、顔は柔和で好々爺、って感じだ。

 さっきのおっさんよか好感は持てる。

「えー、皆さんこんにちは。」

 まるで孫にでも話しかけるような口調。

 ホントに学長か、という思いが浮かぶも、顔に笑みが浮かぶ。

「皆さんようこそハンターアカデミーへ。私が学長を務めますレモントです。」

 じいさんはそう言って講堂を見回す。

「今年も、こんなに沢山のハンターを志す人が、私どもの招待に応じてくれたことを心から嬉しく思います。」

 ぽっちゃりとした頬が落ちるんじゃないかと思うぐらい、じいさんはにっこりと笑った。

 先程まで辺りを支配していた張りつめた空気が緩和されてゆくようだ。

 もしじいさんがそれを狙っているなら、やはりというか、さすがは学長、って感じだ。

「皆さんには、このアカデミーで最も誉れ高いといわれるハンターを目指すことになります。」

 ハンター。

 その言葉の響き。

 俺は身震いをした。

「ハンターになるには、それはそれは大変な苦労と努力を要します。」

 さっきまでただの好々爺だと思っていたじいさんの言葉一つ一つが、胸へ積もってゆく。

「ですが、ここハンターアカデミーは皆さんの苦労と努力を無駄にはしません。」

 聞き入ってしまう。

「世界最高の設備と技術、現役、そして過去その名を轟かせた一流のハンターによる講義が、皆さんの力強い味方となるでしょう。」

 ごくりとつばを飲む。

「皆さんの才能という種を、ここハンターアカデミーで見事開花させて下さい。」

 才能・・・

「ハンターアカデミーは、皆さんを歓迎します!」

 俺は大きく拍手をした。

 自然にその行為におよんでいた。

 このじいさんは好きだ。

 まわりの連中もそうなんだろう、先程とは比べものにならないぐらいの大きな拍手だ。

 イヴにはやはりこづきが必要だったが・・・

 

 鳴りやまぬ拍手の中、学長はあたしたちに手を振って壇上から降りていった。

 トップの人間がいい人そうであることに、あたしは単純に嬉しくなった。

 それに比べて、あのライズとかいう副学長はどうも・・・

 壇上では、この町の協議会だかなんだかってやつのお偉いさんが上ってきては全くもってつまらない話をして下りてゆく、ってことの繰り返しだ。

 随分長いことつまらない時間が過ぎている。

 かったるいねぇ・・・

 それにしても、やっぱり組織のナンバー2は副学長みたいに慕われるより頭が切れればそれでいいんだろうか。

 トップは御輿、必要なのはカリスマ性。

 参謀は、その御輿を汚さないために汚れ役を買って出る。

 ・・・そんな風にした方が、組織ってものは上手くいくんだよ。

 昔、そんなことを言った奴がいたね・・・

 っと、その副学長が再び壇上に上がってきた。

「それではこれからのことを簡単に説明する。心して聞くように。」

 嫌みったらしい声だねぇ・・・

「諸君にはまずパーティを組んでもらうことになる。」

 パーティ、ね。エロ眼鏡もそんな言葉を言っていた。

「パーティを一つの単位として今後活動してもらうことになる。我々の講義を聞くのも、クエストと呼ばれる実技訓練も、全てパーティで取り組んでもらう。当然評価もパーティごとに下されるから、人材は十分吟味するように。まぁパーティメンバーは書類提出によって変更可能だがな。」

 いちいち棘があるね・・・

「パーティといっても人数は何人でも構わない。もちろん一人でもいいし、四人だろうが六人だろうが、無論十人以上でも問題ない。」

 十人以上って・・・

「無論・・・十人以上のパーティ内で密な連動が執れると思えんがね。」

 いちいちむかつくねぇ・・・

「当然だがここにいる諸君は初対面の相手が多いだろう。」

 まあ、それはそうだ。

「そこでだ。これから一週間、つまり彩花の月(この世界で四月)十二日までに、君たちは自分の足でパーティのメンバーを集めて欲しい。」

 ふうん・・・

「パーティを組み終えたら事務課で手続きをしたまえ。後々の変更もそこでできる。」

 あそこか・・・あの鉄仮面女はこんな大勢の人間を相手にするわけか。

 ・・・ぴりぴりしていそうだ。

「講義はさらに一週間後の十九日から始まる。講義のクラス分けはその二、三日前を目安に講義棟一階大ホールに提示する。必ず確認するように。」

 つまり二週間は講義まで時間があるってことだね。早くパーティを組めれば、アカデミーや街をぶらついてみるのもいいかもしれない。

「次に寮について説明する。」

 寝床は大切だからねぇ。

 あたしは横目でエロ眼鏡を見てみた。

 聞き入ってるよ・・・



「アカデミーの、新市街側、山風通りに面した壁の脇に立つ煉瓦造りの建物が諸君がこれから私的な生活を過ごすことになる学生寮だ。」

 へぇ、結構良さそうな建物だと遠目に見て思っていたやつだ。

 あそこなら別に文句もない。俺様にぴったりだ。

「部屋割りは寮の管理人がやってくれる。使用上の注意も各部屋に用意させた。詳しくはそれを見るといい。」

 ふうん。

「それから、後で君たちにはここアカデミーの制服と学年章が配られる。」

 はぁ?制服あんのかよ。

「制服は今後君たちの正装となる。これからは重要な式などある時はそれを着るように。なお講義の受講の際にも着用が望ましい。制服を着ることによって、自分が誉れ高いハンターアカデミーの一員であることを再認識することを目的としている。強制ではないことは付け加えておこう。」

 強制じゃねぇならいいや。めんどい。

「なお学年章だが、これは先程言ったパーティを組む時重要になる。諸君等はまだ同学年の者のみとしかパーティを組む必要がないが、今後は他学年と組むことが条件とされたクエストもないとは言い切れない。」

 ふむ。

「有り体に言うとそれ以外の積極的な存在理由はないが、先輩や先人、自分よりも優れた人物を敬うのは人としての礼儀だ。それを理解して欲しい。」

 自分より優れた?学年違うだけでそこまで言うかよ・・・

「次にに簡単だが君たちの単位の説明をさせてもらう。」

 単位、って単位制だったんだ。事前に言っとけよ。

 ところどころずさんだな、ここも。

「ここハンターアカデミーは単位制だ。そして飛び級を認めている。」

 なるほど、それで優れた人物、ね。

「そのため君たちの中には今年中に進級できる者もいるかもしれない。先程学年章の説明の際、優れた人物と言ったのはそのためだ。」

 ん〜。

「平均的な卒業までかかる歳月は四年、それより短いことに全く問題はないが、八年以上の在籍は認めていない。」

 留年ね。

「なおあまりに成績の芳しくない者には退学もあり得る。」

 うへぇ。

「以上、必要最低限の説明はこれで終わりだ。詳細はこれから諸君を指導することになる教員たちから話されるだろう。」

 ふんっ。

 とりあえず、副学長の言うとおり最低限の情報は手に入った。

 パーティね・・・

 美女が、いいな。

 切望。

 いや、絶対条件だ!

 俺様のバラ色のアカデミー生活のために!

「鼻の下伸びてるよ。」

 うるせえ暴力女。

「げふっ!」

 生徒の退出が始まった講堂に、俺様の哀れな声が響いた。

「思ってても口に出すな!」

 ごもっとも・・・


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