終章
epilogue
「悲しいかな、終わりはまた次の始まりに過ぎない。」
あれから数日たった。
特に特筆すべきこともなく、日々は重ねられている。
朔はいつもの日常の中にいた。
傷は嘘のように消え、普段通りの生活を繰り返している。
確かにあの時、朔は死にかけた。
それを救ったのが、輝更だった。
死にゆこうとするものに、命の光を与える、御子の力の中でも最高峰の力によって救われたらしい。
らしいというのは、何故かあの時、あの場にいた児雷也にそう言われたからだ。
闇が混沌の象徴で、光が秩序の象徴。
彷徨う魂を、肉体へ導く力だと、そう説明された。
朔は、自分の背中で眠る少女に、心の底から感謝をした。
血まみれの姿で家に帰ると、晴海やみのりは大騒ぎだった。
その姿を見て、自分はその程度は愛させているんだと、朔は以前の暴言を撤回した。
二人とも、済まない、とありがとう、をずっと言っていた。
目覚めた輝更に、事情を説明したのは朔自身だった。
自分が伝えるべきだと思ったからだ。
輝更は最後まで聞き終えると、一言だけ言った。
「やっぱり私たちは結ばれる運命なんだね。」
と。
胸がいっぱいになって、何も言えなかった。
未だ家の中のぎくしゃくとした感じは脱ぎ切れてはいない。
それでも、すこし笑顔が家に戻ってきたことを、朔は単純に嬉しいと思った。
それと、家族が増えた。
輝更が抱きしめ続けていた、一匹の仔猫。
小さな黒猫を、朔が輝更と一緒に家まで連れてきたのだ。
とりあえず、もう家には馴染んだようだ。
学校も、ちゃんと行くようになった。
百合子は何も言わなかったが、笑顔を見せてくれた。
翼は相変わらず悪態をついてきたが、前程棘はなかった。
真由も、まあいつも通りだ。
燎士とは、以前程言葉を交わすことはなくなった。
別段、今自分は誰も怨んではいないと朔は思っている。
前のように、気さくに話せることを望んでいる。
いつも通りの日常と言っても、少しの変化はある。
力の使い方を覚えるため、ほとんど毎晩のように禍凶狩りに付き合わされている。
命の危機に瀕するようなことはさせられないが。
大きな流れに流されるように、朔は闇の現へと深く関わるようになっている。
あの日の戦いは終わりではなかった。
本当の戦いが、始まっただけだ。
始まりの終わり。
安っぽい人間たちの、
負の感情渦めく物語の、
始まりの、
終わり。
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闇の現
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