第一節
雨だ。
とうとう降り出した。
私は駆けだした。
傘は持っていない。
どうするか。
家に帰る?
もう一人の私が、私自身に問い掛ける。
駄目。
それは駄目。
ここでその選択はあってはいけない。
私は彼女の提案を却下する。
しかし彼女もそう簡単には引き下がらない。
このままどうするの?
どうもしないわ。
なら帰ろう?
駄目。
何故?
何故?だって・・・・・・
だって?
だって・・・・・・
雨足は更に強くなってきた。
裏通りを選んで歩いていたため、軒先を提供してくれそうな適当な店はない。
日はとうに暮れ、気温は段々と下がってくる。
濡れた服が肌にくっつき、夜風が吹く度身震いをしたくなる。
どうするか。
再び私は自分に同じ問いかけをした。
しかしすぐに頭を振る。
もう一人の自分が、きっと家に帰ろうと言い出すから。
家には、帰りたくない。
雨に打たれるのも構わずに立ち止まり、私は自分の頭から彼女を追い出した。
余計に濡れた服が酷く冷たい。
私は恨めしげに空を見上げる。
黒い雨雲が、狭い空に浮かんでいる。
狭い空だ。
本当は広いのに、色んな物に邪魔されて、あんなにも小さくなっている。
まるで私のようだ・・・・・
「くしゅん・・・・・・」
不意にくしゃみが出た。
これは少し良くない。
風邪には罹りたくない。
どうするか。
三度目の問い。
雨は容赦なく私に降り注いでくる。
冷たさや寒さを越えて、それはもはや痛くもあった。
とりあえず、私は歩き出した。
家とは逆の方向へ・・・・・
黒の旅人/
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