有刺鉄線越しの風景1





彼女は気高く美しく
僕は卑しく醜かった

それでも

僕は彼女よりは
自由だった
何処へでも思いのままに行ける僕と違い
彼女はとても不自由だった

冷たい
無機質な
有刺鉄線の檻

僕は彼女に恋したけれど
彼女は空に恋した

触れれば傷付くその檻の中で
彼女はただ空を見上げていた

僕は言った
『外に出してあげようか』
彼女は答えた
凛とした澄んだ声で
『いいえ』


やがて僕は旅に出なければならなくなった
遠い遠い遥かな旅路
凍て付く六花の園から
麗らかなる蓮華の園へ

風に彼女の想いを馳せ
僕はその地を去った
やがて迎える春まで
彼女がどうか無事でいてくれるように
ただ祈りながら

やがて
僕が再び長い道のりを超えて
帰ってきた時
彼女の姿を見かけた

冷たい
無機質な
有刺鉄線の檻の中で
彼女もまた
冷たく
無機質に 存在していた

彼女の体はそこにあっても
彼女の心はそこに無い
彼女の心は空に吸い込まれ
決して戻ってこない

僕は彼女の抜け殻を
有刺鉄線の檻から出した
彼女の体はどこまでも軽く
彼女の瞳は無機質な光を湛えていた

僕は苦笑した
彼らは彼女のことをちっとも理解していない
彼女の瞳が
どれだけ美しかったのか
偽者の瞳を入れても
空の如く澄んだあの瞳には及ばない

僕は彼女を抱えて
舞い上がった

冷たい
無機質な
有刺鉄線の檻の扉を開いたまま

空は何処までも青く高く
悲しいほどに澄んでいた


やがて
鳥の剥製を抱えた一羽の鳥は
空の向こうに
吸い込まれて消えた




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「向日葵庭園」管理人、向日葵ぼぼ様からサイト運営一周年記念として。
テーマは「有刺鉄線越しの風景」で、二本目。
一本目のハイテンション&ギャグコメディとは打って変わって、
静かにもの悲しく、暗い詩に仕上がっていますよね。
ありがとうございました。




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