有刺鉄線越しの風景1
俺の友人に、一人、他の連中とは少し変わった奴がいる。
「昨日金物屋でさぁ、いい有刺鉄線手に入れたんだよー。今日見に来ないか」
………沈黙………
前言を撤回する。
満開変な奴だ。
「何かさ、何処かで見たことがあると思って直感的に買っちゃったんだけど。本当いい艶してるんだよ」
有刺鉄線に艶も何も無いと思うが…。
「あ、あれだよ。何処かって、前に父ちゃんに会いに言った時に見たんだ」
ちょっと待て。
「いやぁ、父ちゃん感激の余り顔を真っ赤にして怒ってさぁ。二度と来るなって言うんだ。でも、やっぱり親子じゃん? 俺って親孝行だよねー」
いや、それはむしろ合う顔が無いってことじゃ…。てか、待て。
「まぁ、父ちゃんの知り合いのごっつい人達にすぐ追い返されちゃったんだけど、来週の日曜日にもまた行こうと思って」
落ち着け。そこは、お前…。
何処の監獄だ?
青ざめる俺を他所に、奴は意気揚々と俺を家まで案内した。
奴の家はと言うと…。
「どうだ? ここが俺の家なんだ。結構広いだろ!」
広さなんかどうでも良かった。
何だそのフェンスに隙間無く絡まった有刺鉄線は。
マニアか、お前鉄線マニアか。しかも刺付か、凄い趣味だ。
しかし、俺は奴の家を見上げた瞬間、凍り付いた。
…壁に刺が生えてら…。
………沈黙………。
いや、待て待て待て待て。
何だこのサイコな猟奇屋敷は。
「あ、母さん、ただいま。ほら、こいつ俺の友達!」
…今、お母さん俺を見て哀れんだ顔しなかったか?
てか、何でお前のお母さん、ストッキングを被ってるんだ?!!
何か、即興で被りましたって感じだぞ?!!
いや、その前に
ストッキング被ってるのに顔の表情が分かることが、限りなく嫌。
ストッキングを被った小柄な奴のお母さんは、そそくさとキッチンの方へ姿を消した。
「じゃ、こっち来いよ。俺の部屋案内するから」
そう言い、奴は居間に俺を通した。
居間にはちゃぶ台と、座布団と、やはり有刺鉄線が巻き付けられたテレビが…。
何だこのサイケデリックなテレビは。
いや、テレビは悪くない。
だが、如何せん、どうしてこんな斬新なアートにする必要があったのか…。
むしろ、巻く意味あるのか。
奴はテレビをつけて座布団に腰を下ろした。
「あ、家庭内暴力だって、物騒な世の中になったねぇ」
物騒なのはこの家だ。
その時、居間にジョッキと牛乳を携えて、奴のお母さんが入ってきた。
やはりストッキングだ。
「あ、サンキュー母さん」
何も不自然と言った素振り無く、母親からジョッキと牛乳を受け取る奴は、一体どういう生活を…って、あ、何かお母さん手が震えてるぞ?!!
「お前も飲むか? おいしい牛乳だぞ」
…遠慮しておく。
てか、お前ジョッキで牛乳飲むのか、いい度胸している…。
奴にジョッキと牛乳を渡した母親は、逃げ去るように居間から出て行った。
何だ、何なんだ、この家。
息子は無邪気に猟奇だし、お母さんはストッキング覆面だし、お父さんは監獄だし…。
俺は思った。
…こんな飼い主に拾われたが運のツキだった…。
有刺鉄線の首輪を巻かれながら、そう三毛猫の雄は思ったとか、何とか。
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「向日葵庭園」管理人、向日葵ぼぼ様からサイト運営一周年記念として。
テーマは「有刺鉄線越しの風景」で、一本目。
ああもう、ぼぼさんらしいギャグのオンパレード。
細かい演出もニクイですね。
ありがとうございました!!
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