『何もない』と俺は言った。 『構わない』と彼女が言った。 俺達は何も持ってない。 空のグラスに賽を振って、その日の予定を決めるだけ。 サブリナ・ベイビー。煙が目に凍みる。
周りはとやかく煩くするけど、生憎俺にはどうでもいいし。 肌を隠して踊る、安い酒場の安い女。それでも毎日イイ夢を見てたんだ。 あの娘にはカリプソあったけど、俺には何もないから。 今ごろきっと灰になって、あの空を覆ってるんだろう。 それは仕方ないし、俺には関係ない。 誰かにすがるくらいなら、どっかに魂を売っ払った方がいい。 俺はそう思ってた。それだけ。
ヘッドライトが闇を切り裂く。 カーブ曲がりたくなくって、ハンドル離したデットデイ。 そこに彼女は立っていた。 ティーンエイジのリトルウィッチ。 チャイナドレスに一目惚れ。 赤いサテンが燃えてるようで、世界を燃やす炎に見えた。
別に驚く事じゃない。 『俺もそうさ』 誰だってそうさ。
昔はそう思ってたけど、今は別に、どうでもいいや。
『構わない』と彼女が言った。 俺達は何も持ってない。 何もないから、何も失わない。 それでいいんだ。 それでいいんだ。 |