Doesn't Make It Alright










『何もない』と俺は言った。

『構わない』と彼女が言った。

 俺達は何も持ってない。

 空のグラスに賽を振って、その日の予定を決めるだけ。

 サブリナ・ベイビー。煙が目に凍みる。


『自分探しの旅に出ます』と、書き残して前の彼女は消えてった。

 周りはとやかく煩くするけど、生憎俺にはどうでもいいし。

 肌を隠して踊る、安い酒場の安い女。それでも毎日イイ夢を見てたんだ。

 あの娘にはカリプソあったけど、俺には何もないから。

 今ごろきっと灰になって、あの空を覆ってるんだろう。

 それは仕方ないし、俺には関係ない。

 誰かにすがるくらいなら、どっかに魂を売っ払った方がいい。

 俺はそう思ってた。それだけ。


 夜のハイウェイ。へこんだガードレ−ル。

 ヘッドライトが闇を切り裂く。

 カーブ曲がりたくなくって、ハンドル離したデットデイ。

 そこに彼女は立っていた。

 ティーンエイジのリトルウィッチ。

 チャイナドレスに一目惚れ。

 赤いサテンが燃えてるようで、世界を燃やす炎に見えた。


『世界は破滅へ向かってる』彼女はそう言った。

 別に驚く事じゃない。

『俺もそうさ』

 誰だってそうさ。


 もしも天国ってものがあるなら、一度くらいは行ってみたい。

 昔はそう思ってたけど、今は別に、どうでもいいや。


『何もない』と俺は言った。

『構わない』と彼女が言った。

 俺達は何も持ってない。

 何もないから、何も失わない。

 それでいいんだ。

 それでいいんだ。









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