黒猫 猫は死に場所を選ぶという。 しかし俺はそうは思わない。 あの黒猫を見ろよ。 長いしっぽをぴんと立てて、 颯爽と塀を歩んで行く。 奴は随分と生きた。 俺がここに来たときから居て、 俺はここに来てもう随分年をくった。 奴はその間、毎日のようにあの塀を歩いていった。 もう長くはないだろう。 昔は輝く黒いた躯が、 今や艶をなくし見窄らしい。 けれど奴は行った。 虫の知らせか知らないが、 奴はもうここを歩かないと思う。 誰も見ていないところで死ぬんだろう。 孤高の黒猫。 その誇り高い精神。 それを内に秘めた黒き肢体を、 俺はひっそりと見送った。 なぁ、こうは思わないか? 猫は死に場所を選ぶんじゃない。 最後に生きる場所をえらぶんだ。 なぁ、最高だろ。 全く、最高だ。 |