なんだかんだ言っても、俺は俺なりにこの生活を気に入ってるよ。
嘘じゃないさ。
「あ〜〜〜〜〜〜〜」
鬱屈した気持ちを少しでも晴らそうと声を出したはいいが、出てきたのは自分のものとは思えない程間の抜けたものだった。
力が抜けて、机に突っ伏す。
だりぃ・・・
頬に机のひんやりとした温度を感じながら、俺の目は窓の外を見ている。
薄暗い、6月の街。
傘をさしても、知らず知らずのうちに制服が湿っていきそうな、しとしと雨が降り続いている。
梅雨っていうのは気が滅入って仕方がないな。
大体春休みで休みボケして、
4月からは新学年ではしゃいで、
ゴールデン・ウィークにまただらけて、
それが明けてしっかり五月病になった俺達だというのに、
この梅雨という否応なしに気分をブルーにさせる時期に、
何故に中間テストなるものが執り行われなければならないのか。
これってもしかして教師側の陰謀?
しかし全国的に見てもこの時期中間テストが行われる学校は多いわけで・・・
はっ!!
まさか文部省(現在文部科学省)直々のお達しなのか!?
ということは、だ。
国家規模の陰謀なのか!!
「ねぇ、何やってんの?」
・・・俺の妄想が萎んで消えた。
「別に・・・」
俺に声をかけてきた奴に、視線を向けて答える。顔は突っ伏したままだ。
「ナミ、まだ帰らないの?」
リナ、要璃那、一応幼なじみが突っ立って俺を見下ろしている。
ちなみに俺はマゾじゃないから、見下ろされてもいい気持ちはしない。
何がって?解らないならそれでいいさ。
「雨、降ってるしな」
俺は緩慢な動作で上体を起こす。
きっと机と密着していた右頬は赤くなっていることだろう。
少なくとも、これが元に戻るまでは帰れないよな。
「お前は?こんな時間まで何してんだ?」
少なくとも、黒板の上の時計は5時を過ぎている。
日は長くなったが、それと下校時間とは関係ない。
「あたし?日直だよ、今引き継ぎ簿出してきた。」
そういってリナは黒板の方に歩いて行く。
教室の隅っこ、一番窓際の俺の席から、奴は軽やかにステップを踏むように歩を進める。
ショートカットが揺れ、スカートの裾が靡いた。
足は細いと思う、うん。
「明日はナミが日直だったね」
そう言って、黒板の日付の下に書かれた『要璃那』の名前を消して、『丹雫南』と俺の名前を書いた。
うちのクラスは廊下側の一番前の席の奴から蛇行して、一日交替に日直をやる。
リナは俺の二つ前の席。
順当に行けば前の席に座ってる内海拓の番だが、タクは明日剣道の地区予選で公欠だ。
「いいよなタクは、お上公認でサボタージュだ」
「さぼりじゃないでしょ。羨ましければ大会出れるような部活すればいいのに。さて、出来た」
リナは日付も書き換え、チョークの付いた手を払う。
まぁ言っていることはもっともだ。
「じゃ、あたし帰るけど・・・ナミはどうするの?」
俺はもう一度窓の方に顔を向ける。
そうだな・・・
「俺は、まだいいよ」
「傘なら貸すけど?」
ありがたいけど、必要ない。
俺は首を振って申し出を断った。
リナが訝しげに俺を見た。
「またシックス・センス?」
「そ」
リナは俺と同じように窓の方を向いた後、俺の隣の席、そこは榊原明日香んとこだな、に腰を下ろした。
「帰るんじゃないのか?」
「なにか見れるかもしれないから」
そうして俺達は黙って窓の外を眺めていた。
第六感、というんだろうか?
特に役立った事も、迷惑に感じることもない程度の勘が俺にはあった。
で、今日は何かそれを感じる。
まだ帰るな、と、何かが言ってるんだ。
二人黙ったまま、教室に佇む。
でも慣れた二人だ、重苦しくなんてない。
ただ静かに、時が流れていくのを待った。
どれくらい経ったのだろう。
「止んだね、雨」
璃那の声は、どこか明るい。
「アレが、見れるから、だったのかな?」
「多分、な」
灰色の雨雲の隙間から、真っ赤な夕日が顔を出している。
そして。
「虹なんて、久しぶりに見たかも」
「だな」
七色の光が、緩やかな弧を描き空に輝いている。
「帰るか」
「だね」
人気のない廊下に、影を長く伸ばしながら、俺達は帰路についた。
明日は、どんな日になるだろう。
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キリリクSS“日常・学園コメディ”。
なんか中途半端な…
でも書いてて楽しくなってきたり。この設定で短編書くかも(笑)。
返品可です。