present
とおりゃんせとおりゃんせ
はてさて、一体どうしたことか。
きょろきょろと顔を動かせども、見知らぬ山川。
先刻まで見ていた風景とは似ても似つかぬ。
目を瞑ったその刹那、私の周りはどうにもこうにも様変わり。
一体全体どうしたことか。
訳もわからぬ。
とおりゃんせとおりゃんせ
ここは何処の細道じゃ
確かに先程まで小江戸におった。
娘の七つのお祝いに、川越天神へ行く道中。
おぶった娘は眠りこけ、一人ふらふら小江戸見聞。
華やかな小江戸の雰囲気に、あてられ思わず目を閉じた。
そしたらどうだ。
物寂しい細道に、我が身と娘。
他に誰もいやしない。
ここは何処の細道じゃ。
とおりゃんせとおりゃんせ
ここは何処の細道じゃ
天神様の細道じゃ
訳もわからず細道行けば、目に見ゆるは大きな門。
鬼が一匹番をしておる。
恐る恐る道を訊けば、心の蔵が出そうな答え。
「天神様の細道じゃ。」
とおりゃんせとおりゃんせ
ここは何処の細道じゃ
天神様の細道じゃ
ちょっと通して下しゃんせい
心底驚けど、これはこれで好都合。
ここは幽世、神の国。
ならば娘のお祝いに、直に神様にお参りいたそう。
仁王立ちの鬼に一言申す
「ちょっと通して下しゃんせい。」
とおりゃんせとおりゃんせ
ここは何処の細道じゃ
天神様の細道じゃ
ちょっと通して下しゃんせい
御用の無いもの通しゃせぬ
ぎょろりと鬼の目動き、私を睨んで凄んで云うには、
「御用の無いもの通しゃせぬ。」
とおりゃんせとおりゃんせ
ここは何処の細道じゃ
天神様の細道じゃ
ちょっと通して下しゃんせい
御用の無いもの通しゃせぬ
この子の七つのお祝いに
お札を納めに参ります
されどご用ならあるが故、びくびくしながら言い返す。
「この子の七つのお祝いに、お札を納めに参ります。」
とおりゃんせとおりゃんせ
ここは何処の細道じゃ
天神様の細道じゃ
ちょっと通して下しゃんせい
御用の無いもの通しゃせぬ
この子の七つのお祝いに
お札を納めに参ります
行きはよいよい
帰りは怖い
すると鬼は娘を見やり、急に威張って語るによれば、
「此処は幽世神の国。
八百万の神々の住まう場所。
汝向かうは七柱住まう地。
天地開闢に現われし、
国常立尊、
国狭槌尊、
豊斟渟尊が三柱に、
泥土煮尊・沙土煮尊、
大戸之道尊・大苫辺尊、
面足尊・惶根尊、
伊弉諾尊・伊弉冉尊が対神四柱、
併せて七柱の住まう場所。
娘が七つになる日まで、七柱其が霊守りし。
故に努々気を付けよ。
七つの祝いとは之即ち、
娘の魂を、幽世より現世へ遷すこと。
されど七柱今更に、
汝に渡さぬと言うやも知れぬ。
行きはよいよい、
帰りは怖い。」
とおりゃんせとおりゃんせ
ここは何処の細道じゃ
天神様の細道じゃ
ちょっと通して下しゃんせい
御用の無いもの通しゃせぬ
この子の七つのお祝いに
お札を納めに参ります
行きはよいよい
帰りは怖い
怖いながらも
とおりゃんせとおりゃんせぇ
語り終えるとようように、
鬼が開いた大きな門。
背負った娘は未だに起きず、
すやすやすやすや寝息を立てる。
この子が七つに成れたのも、
天神様の庇護があってこそ。
お参りするのが礼儀だけれど、
鬼の話はまこと恐ろし。
門くぐる我が身に鬼が云う。
「怖いながらも、とおりゃんせ、とおりゃんせ。
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キリリクSS“とおりゃんせとおりゃんせ”。
「この子の七つのお祝いに」を基盤、ということでまんまとおりゃんせの歌を使ってみました。
ちなみに鬼の言ってることは私の勝手な解釈ですのでご注意を。
詩じゃなくなっちゃいましたね・・・
返品可ですので、お気に召しませんでしたらご一報を。
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