俺は銜えた煙草を動かした。
紫色の煙をゆっくりと吐き出す。
寄りかかった大木は、これでもかって位飾り立てされてる。
夜の帳が降りた街に、煌めきを与えていた。
あぁ、暇だ。
暇つぶしに、俺の話に付き合ってくれよ。
世界は迷路だ。
何処ぞの誰かがそんなことを言ったそうだ。
何を言っているんだか。
全く、一体全体何故にそんな簡単なことに気付かなかったのか。
逆にそっちの方が気になるね。
この世界が、迷路以外の何だって言うんだ。
目の前を慌ただしく歩き過ぎてゆく人影を見てみろよ。
せかせかと、皆一様に何かに追われるように歩いている。
何かを探すように。
彼等は出口を探してるのさ。
世界っていうこの迷路のね。
おっと。
虚ろな目をした奴は例外さ。
彼等は語るに値しない。
話がずれた、続けよう。
制限時間つきのこの迷路。
気付いたら皆一様に此処に迷い込んでいて。
出口を求めてああやってうろうろ彷徨っている。
出られる奴なんて居ないのに。
いや、そうでもないか。
時間が来たら、出るだけなら出られなくもないか。
それは求めていたものとは違うかも知れないけれど。
寂しいね。
哀れだね。
悲しいね。
・・・
何の話だった?
そうだ、この世界は迷路だって話さ。
その前に、少し煙草の味を楽しませてくれ。
どうせ出れない迷路だけれど、楽しまなくちゃ損だ。
そうだろう?
ゆらりと煙が空へ上がってゆく。
その空はずっしりと重そうな雲に覆われていた。
空、と言えば、だ。
嘗て人は、この迷路の出口を空に求めたこともあった。
地上に見つけられない迷路の出口。
ならば、きっとそれは空にある。
人々はそう思い、届かぬ空を天国と呼んだ。
迷路の先は楽園だと、迷う苦しさからそう信じた。
迷うのは辛いね。
先が解らないのは怖いさ。
その気持ちは、俺にも解るよ。
でもそれは、別の話。
空に話を戻そうか。
空に憧れた人たちは、やがて鉄の羽を以てそこに至る。
けれどそこに天国なんてありはしなかった。
空はだだっ広い迷路だった。
迷路が広がっただけだった。
ならば、もっと高くに。
そう考えたのも頷ける。
宙へ。
より高く。高く。そこに出口を求めて。
月の裏側を見て何を感じただろう。
絶望かな?
宇宙にだって、出口なんて無かった。
迷路はただただ広がるばかり・・・
しかし、だ。
何でそうやって、むきになって出口を探すんだろう。
出れないって、解ってる奴等だっているだろうに。
諦めるのは、そんなに悪いことかな?
出れないなら、出れないんだと。
受け入れる方がいいんじゃないかな。
努力でどうこうなるものじゃないだろ?
何で生まれてきたんだ!!
とでも、海に向かって叫ぶぐらい無意味だね。
頑なに受け入れるのを拒むなら。
ああ、あと語弊がないように言っておくけど。
別に俺は諦めろ、って言っているわけじゃない。
せめて受け入れろ、って言っているんだ。
その方が、絶対楽しめる。
世界は迷路で。
出口はなくて。
迷うのは辛くて。
先が見えないのは怖くて。
でも。
・・・
お。
雪か。
仄暗い空から白い者達が一斉に降り注いできた。
通りで冷えるわけだ。
吐く息は白い。
その白さの先に、俺は待ち人を見つけた。
やれやれ。
待ちくたびれたね。
まあいいか。
今日は特別な日。
許してやるとしよう。
悪いが、話はこの辺でお仕舞いだ。
だから最後に一言だけ。
迷路に迷うのも、楽しいものさ。
自分が、楽しめるなら、ね。
それじゃあ、素敵な夜を。
素晴らしい迷路を。
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初のキリリクSS、“素晴らしい迷路に舞うメッセージ”。
折角クリスマスが近いので、それをイメージしてみました。
二十の名を持つ女さん、こんなんで以下かでしょう?
ちなみに返品可なので、お気に入りにならなければ一言お願いします。
至急書き直します故・・・